除菌治療について

 H.pylori感染は胃・十二指腸潰瘍の発症と密接に関連しています。
 実際、胃・十二指腸潰瘍に関しては、H.pylori除菌治療が保険適応となり、当院でもこれまで多くの方に除菌治療を行い90%近い除菌成功率を収めています。除菌に成功した人は90%近い確率で潰瘍の再発も見られず、したがって投薬(潰瘍治療維持療法)も必要なくなり、患者さんにとってコストパフォーマンスもよいということになります。
 また、ピロリ感染症胃炎(萎縮性胃炎)は、胃癌の発症リスクであり、できるだけ早い年齢で除菌する事により胃癌の発症リスクを低下させる事ができます。

H.pyloriとは?

 H.pyloriは長さ2.5~5μmのグラム陰性らせん菌で、菌端に4本から6本の鞭毛をもっています。H.pyloriは、この鞭毛を束ね1本の太いらせん鞭毛としてモーターのように回転させて直進したり、鞭毛をばらばらに伸ばして方向転換したりと、胃の粘膜上皮の表面で活発に活動しています。胃はph2程度の強力な胃酸を分泌するのに、どうしてH.pyloriが生息できるのでしょうか。それは、H.pyloriは強力なウレアーゼ活性を有し、尿素からアンモニアを産生する事により胃酸を中和できるからです。感染経路は、経口感染といわれています。特に家バエなどの媒介感染が指摘されています。他に、内視鏡を介した医原性感染も指摘されています。最近の研究では、H.pylori感染は、ほとんどが母子感染であり、5歳までに感染が成立していると言われています。日本では一般人口に占めるH.pylori血清抗体陽性率は40歳以上で70~80%に達するといわれています。世界的には、全世界人口の約50%が感染しているといわれています。一般的に衛生状態の良い先進国ほど感染率は低いようです。

H.pylori感染の判定は?

 当院では内視鏡時に胃の数箇所を生検する侵襲的診断法である迅速ウレアーゼ試験(生検組織を特殊な液体に入れ、液の色が赤く染まったら陽性)と培養法、検鏡法、あるいは内視鏡による胃生検組織を用いない非侵襲的診断法である尿素呼気試験(呼気中の尿素を測定する)を組み合わせて判定をしています。最近、便の採取により判定する、H.pyloriの便中抗原測定法が開発され、保険収載されたので、当院でも行っています。

除菌に使う薬剤は?

 当院では、除菌治療としてボノサップ(タケキャブ40mg、クラリス400mg、アモリン1,500mg)を1週間内服投与しています。現在、一次除菌の成功率は95%です。この中で、除菌の不成功例は、ほとんどがクラリスに対して耐性のH.pyloriの存在が原因です。除菌不成功例に対して、もう一度同じ薬で除菌を試みると、その成功率は30%ほどで、同じ薬を使う意味はあまりないといえます。
 そこで、当院では、除菌不成功例に対しては、二次除菌としてボノピオン(タケキャブ40mg、フラジール500mg[メトロニダゾール]、アモリン1,500mg)による除菌療法を行っています。このクラリスをメトロニダゾールに変更した方法で、二次除菌として約95%以上の除菌成功率があります。
 最近では三次除菌も行っており、一次除菌、二次除菌での不成功例には

  • タケキャブ 40mg

  • サワシリン 1,500mg

  • グレースビット 200mg or グラビット 500mg

の3剤による三次除菌療法を行う事にしています。

除菌の副作用は?

 除菌薬の内服で、数%に下痢、発熱、発疹、喉頭浮腫、出血性腸炎等の副作用が発生するといわれていますが、当院では、下痢が唯一の副作用の発生報告となっています。また、二次除菌で使うメトロニダゾールは飲酒によりジスルフィラムアルコール反応が起き、腹痛、ほてり、嘔吐などが現れるといわれていますので、メトロニダゾール内服中は飲酒を避ける必要があります。
 また、ワーファリン内服者は、メトロニダゾールにより作用が増強し出血がおこる可能性があり、メトロニダゾールの服用には注意を要します。

胃・十二指腸潰瘍以外のH.pylori除菌治療の適応疾患は?

 除菌の適応疾患は、いったいどのようにして決定されたのかという疑問があると思いますが、これはその疾患においてH.pyloriの感染率が高いこととH.pylori除菌治療によりその疾患が治癒あるいは軽快するという事実を根拠としています。以下に日本へリコバクター学会が2003年2月に出したH.pylori感染の診断と治療のガイドラインのなかから、H.pylori除菌治療の適応疾患を示します。

   A 除菌療法が勧められる疾患

   B 除菌療法が望ましい疾患

   C 除菌療法の意義が検討されている疾患

現在保険適応になっているのは1)2)3)4)と8)に含まれる特発性血小板減少性紫斑病です。
5)に関しては、当院では必要な場合は自費で除菌療法を行います。
6)は、胃痛、胃もたれ、胃部不快感などの症状があり、内視鏡上は潰瘍等が存在しない臨床的胃炎のことですが、この疾患の診断自体が除外診断であることなどからいまだ検討中です。
7)は、実際に内視鏡において、逆流性食道炎所見は存在しないが、胸焼け等を訴える状態を言います。過去には、除菌によりGERDが増悪したという報告も見られましたが、最近の報告では除菌がGERDの改善に有効であるという報告が多くなっています。
8)で、最近話題になっているのは、突発性血小板減少性紫斑病(わが国においては約半数の症例でH.pyloriが関与している)、鉄欠乏性貧血(主として小児において)、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、慢性蕁麻疹(胃炎を病巣感染とすれば考えやすい)などです。
6)7)に関して、H.pylori感染が判明した場合、当院では、全身状態、胃炎の程度、本人の希望等を考慮して除菌を判断しています。(もちろん除菌療法はこの場合自費になりますが・・・)

除菌後の問題点は?

 除菌後、約10%程度の症例に逆流性食道炎や胃・十二指腸びらんがおこる場合があります。しかし、症状は軽微です。また、1ヶ月以内の発生が80%程度であり、6ヶ月以内にはほとんど消失している場合が多いといわれています。したがって、これらは一過性であり自覚症状もほとんどなく、臨床的には問題のないものと考えられています。

以上H.pyloriについて簡単にまとめてみました。H.pyloriについて、よく解らないことがあれば来院した際に気軽にご質問ください。